甲飛喇叭隊 第十一分隊 News Letter 第17号
2016年2月14日 発行
 みなさんこんにちは、甲飛喇叭隊 第十一分隊です。
 昨日の東京は今までの寒さを忘れる程の陽気で、今朝は春の嵐が吹き荒れました。馥郁とした梅の香りも高らかに、春の足音が聞こえてくるような気さえしてきますね!
 万葉集にはこのような歌が収蔵されています。

 梅の花 香をかぐはしみ 遠けども 心もしのに 君をしぞ思ふ

 「梅の花の香りの良さに、遠く離れていますけど、心はいつもあなたのことを思っています」という内容なのだそうですが、春といえば恋。恋といえば愛!
 本日はバレンタインデーですが、チョコレートはちょっと脇に置いておいて、戦中の「想うこころ」に思いを馳せてみませんか。

 今回のエッセイは、先日のワンダーフェスティバル[冬](※終了)での株式会社江戸まとい様 “伊八寿司” の販売支援終了後に展示した、伊号第八潜水艦乗員の御遺品についてお送りいたします。

一服の時間、お休み前の一時、どうぞお供にお読み下さい。
<WF2016Wに参加して>


WF(ワンダーフェスティバル)とは、プロ、アマチュアの別無い造形物の展示・販売のイベントとして株式会社海洋堂が運営している模型のイベントです。来場者数5万人を超えるといわれ、多くの模型ファンが集まる大型イベントです。
株式会社江戸まといは、2年前よりWFに参加されており、WAR LUNCHシリーズとしてこれまで日本海軍の戦闘糧食、海軍航空隊の携行食を資料から再現し、好評を得て来られました。模型のイベントですので、当初は「握り飯の模型? 1/6?まさか、1/35ですか?」というようなご質問を頂いた事もありますが、れっきとした「食べられるレプリカ」です。「五航戦にぎり」「海鷲辨當」など、ネットのニュースやミリタリー関連のムック本などで御覧になった方もあるかと存じます。

甲飛喇叭隊第十一分隊は、本出展において、初回より当日の販売支援をさせて頂いております。
4回目となる今回は「伊八寿司」というテーマで出展致しました。伊八とは遣独作戦に成功して知られる伊号第八潜水艦を指しています。
海軍主計兵調理術教科書に潜水艦航海食として掲載されているレシピから採り上げ、「ハム鮨」をメインとしてほか副食物を3点選び、当時の潜水艦乗員が食べた味を現代に再現し、お土産として下士官兵用食器(アルミのタイプ)のレプリカ一式をお付けしました。
当日は約600食をご用意し、性別や世代を超えて、ご来場の皆様に味わって頂きました。

海軍では食事を熱心に研究しており、特に潜水艦においては厳しい状況下で食欲が極めて低下した乗員に嗅覚や味覚に訴求するため、酸味や辛味を強くした、陸の食事や一般のフネの食事とも、また現代の海上自衛隊の潜水艦ともまた違う独特のレシピ、味付けが用意されていました。これらは不自由の無い生活を享受している現代の私たちからすれば、必ずしも美味しいものばかりではありません。
しかし、それを現代流にアレンジすることなく、なるべく当時の味に仕上げる事にこだわりました。今回の「伊八寿司」を召し上がって頂く事で、かつての海軍軍人の労苦を偲び、潜水艦部隊の気分を追体験していただきたい、それが株式会社江戸まとい、そして販売のご協力させていただいた私たち甲飛喇叭隊第十一分隊の願いです。

販売終了後は、同ブースにおいて、伊号第八潜水艦に関する史料の展示を実施いたしました。
ご遺族の方々の御好意で、乗員の御遺品の中から、携帯履歴、勲章記章、写真類、アルバムなどを展示致しました。
どれも貴重なもので、当日の扱いには大変神経を配りましたが、その中でも私がとても心に残りましたのは、小さな金属製のブローチです。

そのブローチはハートを二つ重ねたモダンなデザインで、磁石を付けてみるとくっつきます。どうやら鉄製のようですが戦後70年を経てもなおほとんど錆びていません。表面はよく見るとヘアラインが沢山入り、裏のピンは、少し不格好に歪んでいました。
この可愛らしいブローチは同潜水艦暗号長のお嬢様がお持ちだったもので、暗号長が潜水艦内の廃材を使って作戦行動中にご自身で削り続け、一つのブローチに仕上げたものと伝わっています。そのブローチは暗号長によって奥様にプレゼントされ、今でも大切に保管されていたものをお預かりして展示致しました。
裏のピンも針金を曲げて作られたもので、その拙さに物の無い時代を感じ、そして辛い時代の中にあって大切に育まれたご夫婦の愛を感じます。
もちろんこれは直接の海軍のものや軍装品類ではありませんが、私はそこに厳しい任務に従事した潜水艦乗員の、確かに存在した一人の青年としての横顔を見ました。

企画実施にあたっては研究家の諸先生方、食器関係の写真資料のご使用を許して頂いた権利者の方、また潜水艦戦友会の皆様など、多くの方にお導き頂きまして大盛況裏にイベントも終了しました。事前準備中より、多くの方にご声援も頂戴しまた。本当にありがとうございました。