甲飛喇叭隊 第十一分隊 News Letter 第39号
2018年11月29日 発行
 みなさんこんにちは、甲飛喇叭隊 第十一分隊です。

 朝夕の寒さもひとしお身に沁みる季節となりました。 神社や公園など木々の生い茂る場所に吹く木枯らしが、いよいよ近づく冬を感じさせます。

 さて甲飛喇叭隊 第十一分隊は先月末、台湾・虎将軍廟、保安堂、龍安寺先鋒祠、東龍宮、宝覚寺にてラッパ献奏と儀仗を奉納して参りました。台湾の気候さながらに熱気溢れる慰霊祭。熱く、暖かく迎えてくださった台湾の皆さんに、心よりお礼申し上げます。

 今回お送りするエッセイは、台湾で日本人を祀る廟に使われる意匠についてお送りいたします。 またこの様子は十一分隊ホームページに写真を掲載しております。 是非このエッセイと合わせてご覧いただき、現地の雰囲気を感じてみて下さい。

 一服の時間、お休み前の一時、どうぞお供にお読み下さい。
<日本人を祀る、台湾の廟に込められた想い>


平成30年度、我々甲飛喇叭隊 第十一分隊は台湾の左半分を巡り、虎将軍廟、保安堂、龍安寺先鋒祠、東龍宮、宝覚寺と過去最多の廟へ儀仗を奉納し、またラッパを献奏するに至った。どの廟も清潔に保たれ、大切に、大事に祀られている事が伝わってくる。

御祭神自らの要望に応えた形の龍安寺先鋒祠を除き、廟はいずれも荘厳である。中に歩を進めると、共通して目を引くのは、龍や武人、吉祥のアトリビュートが複雑に彫り込まれた二本のどっしりとした石柱。そして中央最奥に据えられた祭壇のきらびやかさ。降り注ぐような細かい造形、鈍く光る金色は、そこかしこに使われている生命力溢れる赤い色と相まって、どこからともなく湧き上がる、近寄りがたい神聖さを良く表している。
さらに時間の許す限りあちらこちらに首を巡らせる。天井には蝙蝠や麒麟など、日本ではあまり描かれない瑞獣が珍しい。文字での言祝ぎ、格言などもあちこちに散りばめられている。どうやらこの形式は、台湾ではオーソドックスなデザインのようだ。

見慣れてくると、少しずつ、日本特有の意匠が目に入ってくる。
こちらの寺院で使われる事の多い植物は中華圏ならではの梅だが、梁の中央や交差部など、要所要所に桜が用いられている。見逃してしまいがちだが、こちらの寺院では見かけない、しめ縄や紙垂、垂れ幕。垂れ幕には菊の御紋があしらわれている。細かく描き出される中華吉祥図が一面を覆う中、描き忘れたかと思うような、アンバランスな程白い場所。その場所も、日本特有の文様のために空けられた場所なのだ。富士山が描かれていたり、舞を踊る和服姿の乙女が描かれていたり。地図上でこそ隣国だが、遠い日本を想って、また日本で生まれ育った御祭神を慮って、様々なものを頼りにデザインされた事が手に取るように感じられる。

ある慰霊祭の折に聞いた、元台湾人軍属の方の言葉が耳に残っている。その方は、プロペラの整備を担当されていたそうだ。自分が整備したプロペラで飛んで行った特攻隊…。その時、その方のまぶたの裏には、鮮烈に当時の風景が蘇っていたのだろう。続く言葉は無かったが、表現するにも難しい、強い想いがある事が伝わった。
きっと日本軍人を祀る廟も、ひとかたならぬ強く熱い想いで建立されたに違いない。
台湾と日本の意匠の融和に、その想いが伺える。