甲飛喇叭隊 第十一分隊 News Letter 第40号
2018年12月28日 発行
 みなさんこんにちは、甲飛喇叭隊 第十一分隊です。

 大掃除や正月飾りの準備など、年末年始の準備は進んでいますか? 伝統を通して古を感じつつ、一方で新しい時代の風を感じるのもこの頃ですね。 便利な目新しいサービスを利用してその性能に感嘆したり、それらを利用しつつ古き良き伝統を楽しんだりするのは、近年の新しい年末年始の過ごし方かもしれません。

 この風潮はもちろん年末年始・日本国内に限った事ではありません。いつの時代も新しいものは生まれているもので、それは戦前・戦中・戦後でも変わりなく隆盛を繰り返していたようです。

 今回の隊員によるエッセイは引き続き台湾が舞台です。名前に「栄」の文字を持つ台湾の張榮發氏の船と海に纏わるコレクションを展示した、「長榮海事博物館」(台湾)にスポットを当てています。 年末年始のご予定が未定ならば、暖かい台湾で温故知新、覧古考新を体験してみてはいかかがでしょうか。

 一服の時間、お休み前の一時、どうぞお供にお読み下さい。
<長榮海事博物館 Evergreen Maritime Museum>


瀟洒な赤レンガの中華民國總統府(旧台湾総督府)庁舎を背にして、真っ直ぐに伸びた道路を東へ向かうと、竜宮城のような東門を中心にした大きな五叉路に行き当たります。
木に囲まれたがっしりとした建築の臺北賓館(旧台湾総督官邸)や中正紀念堂前の自由廣場門(旧台湾歩兵一聯隊、山砲大隊跡地)、國立臺灣大學醫學院附設醫院(旧台北帝大医学部附属医院)といった大きな施設に囲まれる形で、エメラルドグリーンの大きな窓が目立つビルディングがあります。同地は戦前は愛国婦人会館があったそうです。

15年ほど前、私が最初に台北を訪れた時はここは国民党中央本部でした。このビルの正面中央に青天白日の徽章が掲げられ、幾旒もの台湾国旗が風を受けていました。総統府の正面に位置する堂々の立地を誇り、なるほど流石だと思いましが、数年後にここを通りかかると、旗や青天白日の徽章が無くなっており、代わりに財團法人張榮發基金會という金文字が掲げられていました。
張榮發氏といえば、東日本大震災の際に日本赤十字社に私費で10億円を寄付されたのをはじめ様々な支援活動をされた人物、または外国人実業家として旭日重光章を受けた人物として日本でも話題になりました。 張氏は昭和2生まれ、苦学して身を立て航海士から船長、やがては長榮海運を立ち上げ、世界有数のコンテナ物流企業から航空、ホテルなどの方面へ事業を展開され、一代でエバーグリーン・グループを築き上げ総裁として采配を揮った人物です。空港でエバーグリーンの旅客機を見たことがある人も多いのではないでしょうか。氏は一昨年、88歳でその生涯を閉じられました。

その氏が20数年の歳月を費やして収集した、船と海に纏わるコレクションを展示し、海事教育と台湾の海洋文化の宣伝教育と保存を目的に設立された博物館が、このビルに入っている「長榮海事博物館」です。船長の袖章をデザインしたアーチをくぐり、ロビーを入ると大きな船の模型が出迎え、ここから気分が盛り上がります。大きなビルの2階から4階が博物館のフロアで、ゆったりとした館内は企業博物館としてはトップレベルの規模ではないかと思います。
まずは古代から19世紀にかけての帆船から蒸気船を精緻な模型で紹介しています。どれも単品でも十分以上に主役感のある貴重な大型船舶模型で見ごたえがあります。続いて、20世紀以降のオーシャンライナー、貨物船のエリアとなります。定期航路のポスターや長榮海運を担ったコンテナ船の模型がずらり。氏はタイタニックのコレクター、研究家でもあったようで、タイタニック関連のコーナーも必見です。
しかしながらやはり目を奪われるのは軍艦模型の展示室。中央に日本の戦艦大和の巨大模型が据えられた他、甲巡高雄や、晴嵐の発艦の様子がよく理解できる伊号四〇〇潜をはじめ、大小世界各国の艦船模型は我が国の海事博物館のラインナップとはまた違うので、一つ一つ見ていっても飽きません。例えばロシアの防護巡洋艦「アヴローラ」が「曙光號」といったように、当然ながらここは欧米の艦船の名前も皆、漢字で表記されているので、それを解読していくのも楽しい。
そして海から見た台湾の歴史。台湾もまた日本と同じ四方の海に囲まれた海洋国家であったことを改めて学ばされます。

私は何度かこの博物館に足を運んでいますが、一番気に入っていつも長い時間をかけて見るのが海洋画の展示室です。
凪、怒涛、雲、船、そして港湾。艦船画というのを普段目にする機会は多くはないと思いますが、ここへ来るとその光彩とうねりの魅力に打ち震えます。
帆船、定期客船、軍艦、それぞれに良い絵が沢山あってとても紹介しきれませんが、一つだけ紹介したいのは英国の海軍画家William Lionel Wyllie(1851-1931)の作品「The Japanese Fleet Offshore with Mount Fuji Rising Beyond-富士山前出航的日本艦隊(1901)」です。タイトルの通り、富士山を背景に隊列を整えて相模湾を出動するわが艦隊を描いています。勇ましく戦闘旗をひらき、将旗や信号旗を掲げた在りし日の聯合艦隊は、日露開戦を視野に入れて整備を進めている時期の緊張感のある姿です。
由来は判りませんでしたが、帝国海軍の依頼で描かれたものなのでしょうか。機関の響き、飛沫の輝きまで感じられそうなこの大型絵画、これを見るためにここへ行く価値があります。
かつて原宿の海軍館(戦前の海軍博物館)に飾られていた建軍以来の日本海軍の様々な戦いを描いた大壁画たちは、今はどこにあるのでしょう。日本国内でこのような絵画を目にすることがほとんど出来ない今、この絵の希少性は金銭的な価値では推し量ることが出来ません。

最後のコーナーは航海探索エリア。実際に使われた航海機器や、船舶そのものについての仕組みなどが展示されています。実船通りに作られたブリッジや機関制御室の展示、六分儀や羅針儀も展示されています。海軍の軍服や長榮海運の制服、錨、実際に結索を体験出来るロープワークのコーナー、日本式の進水斧、西欧式の進水ノミ、測鉛……。ざっと廻れば1時間半ほどですが、全部をじっくり見るには旅先では覚悟が必要かもしれません。一階ロビー脇のミュージアムショップも必見です。

ここには軽食も食べられるカフェがあります。店名の「Cafe Hatsu」は張氏の日本名長島”發"男から来ており、これはながく氏のあだ名であったそうです。台北を訪れた際は、Hatsu船長の海と船への愛情溢れるコレクションを見に行ってはいかが?


閉館日  月曜日
開館時間 0900ー1700
所在地  台北市中山南路11號
     MRT「台大医院」駅2番出口徒歩5分

※情報は2018年12月現在のものです。足をお運びの際は、最新情報をご確認の上おでかけください。